探偵事務所の呼び鈴が鳴り、モニターで見ると首からカードをぶら下げている人が立っていました。
普段は無視ですが、何となくドアを開けて出ると・・・

「こんにちは!!」
「今キャンペーン中で、自社で開発したルンバのような掃除機を、今ならタダでお配りしています!!」

と、A4のチラシに載っている、高価そうな掃除機の写真を見せながら、満面の笑顔で30代ぐらいの男性が言うではないですか!!

僕「タ、タダ・・・!!」

何と言う幸運!!
何と言う幸せ!!

今まで頑張って来て良かった♪

きっとこの人は変装した、時期外れのサンタクロースに違いない!!

今まで中古で買った、3500円の掃除機をずっと使っていたんだ〜♪

新品のルンバのような自社開発した、すばらしい掃除機をタダで貰えるなんて・・・

サンタさんありがとう!!

僕も満面の笑みで男性に、言いました。

「タダなら下さい!!」

すると、男性も負けじとさらに満面の笑顔で、A4のチラシをひっくり返し、ウォーターサーバーのチラシを見せ・・・

男性「弊社はウォーターサーバーをしておりまして・・・」

僕「入りません。」

男性「え?あ、こちらの商品は・・・」

僕「水なんて水道水で十分です。」
僕「水はタダでも入りません。」

男性「いや・・・タダという訳では・・・」

僕「どちらにしても、水は必要ないです!!」
僕「タダの掃除機だけ下さい!!」

男性「でもそれは、こちらを契約してから・・・」

僕「タダって言ったから、タダで下さい!!」

男性「・・・・・・・・・・・。」

僕「何処にありますか?」
僕「車にあるなら、取りに行きますよ!!」

男性「い、いえ・・・会社に行かないと・・・」

僕「分かりました!!」
僕「今から会社まで行きます!!」
僕「ありがとうございます!!」
僕「タダで貰えるなんて嬉しいな〜♪」
僕「君はなんていい人なんだろう♪」
僕「やっぱり、サンタさんですか?」

男性「・・・・・・・・・・・。」
男性「す、すみません。また来ます。」

僕「また来るなんて、そんなご足労はお掛けしません!!」
僕「今から会社まで行きます!!」
僕「タダで掃除機貰いに行きます!!」

男性「い、いえ・・・失礼します!!」

と・・・帰るではないですか!!

でも、エレベーターは1階で止まっており、ここは7階・・・
男性が何度もエレベーターのボタンを押しても、中々エレベーターは来ません。

僕は何度も・・・

「タダで下さい!!」
「取りに行きます!!」
「名刺下さい!!」
「会社住所教えて下さい!!」

と言うと・・・

男性は走って、階段で降りてしまいました。

「あ〜あ・・・行っちゃった・・・」
「タダとの発言の音声押さえていたから、もう少し遊べると思ったのに・・・」
「でもまぁ〜これで二度と来る事はないだろう・・・」
「一番最初にタダって言わなければ、ここまではしなかったんだけど。」

探偵事務所の看板があるのに、呼び鈴を押す勇気は評価するけど・・・

僕みたいな人間もいるのに・・・
あの男性も大変な仕事をしているな〜と・・・
少し同情してしまいました。

ではでは・・・

「夫の浮気に制裁を 3」

よろしくお願いします。


数日後・・・

真紀さんから電話が入った。

「トランさん。もう一度お会いしてもいいですか?」

「・・・大丈夫ですよ。」

日時を決め、再び事務所で会う事になった。

ピンポーン

呼び鈴が鳴る。

僕はドアを開け、真紀さんを迎え入れた。

前回とは違い、どこか覚悟を決めた印象だった。

「トランさん。」
「私決めました。」
「再構築できないかもしれません。」
「離婚になるかもしれません。」
「でも、浮気をしているかもしれないとの疑いのまま、日々を暮らして行くことも耐えれません。」
「今、夫は何処で何をしているのか、知りたいです。」

僕は真紀さんの覚悟を確かめるように聞いた。

「浮気をしている可能性は高いですよ。」
「その現実を知る覚悟はありますか?」

真紀さんは、僕の目を見てはっきりと答えた。

「覚悟しています。」
「後悔もしません。」
「現実を知らなければ、この先なにも進めません。」

僕は、あえて聞いてみた。

「ご主人が敵となり、戦う事になってもですか?」

真紀さんは一瞬戸惑った顔をしたが、意を決したように答えた。

「はい。戦う事になってもです!!」

真紀さんの決意は本物だな・・・

「・・・・・・・・・・。」
「分かりました。」
「やるからには・・・」
「全力を尽くします。」
「さらに細かい打ち合わせをしましょう。」 

「はい!!」
「お願いします。」
「トランさん!!」

僕は、まず、真紀さんの家庭の金銭状況を確認した。

自宅はローンが20年以上残っている。
今売ったとしても、ローンの残債は残るだろう。

「家の名義はご主人一人で間違いないですか?」
「連帯保証人にも、真紀さんはなっていないですか?」

「はい。私は何も署名していないので、なっていないと思います。」

「思います。ではなく、なっていません。と断言出来るように、書類を確認して下さい。」

「・・・分かりました。」

「家の持分も、連帯保証人も無いのであれば、仮に家を売ったとして、ローンの残債があって負の財産になっても、ご主人名義なら逃げ切れるでしょう。」
「車は所有していますか?」

「はい。1台あります。」

「誰名義ですか?」

「主人名義です。」

夫名義・・・
1台ならそうだろうな。
別居するなら、その車も貰う事にするか・・・

「過去1年間の会社から振り込まれた給料の総額を教えて下さい。」
「8万円は引かれていないと仮定して、計算をして下さい。」
「それと、ご主人の年収は聞いた事はありますか?」

真紀さんは考えながら答えた。

「8万円を引かなければ、給料の振り込みの合計は、ボーナスも入れて、確か570万ぐらいです。」
「年収は、750万円ぐらいだと、かなり前に聞いた事があります。」

「570万ですか・・・」

8万円を引いた場合の手取りは474万円だ・・・
そこから、夫に渡している9万円を引くと、366万円になる。

「税金を考えれば、年収750万は計算が合いそうですね。」
「ご主人の年収が、8万円下がっていないと仮定して、説明をしますね。」
「ここに、養育費の算定表があります。」

僕は、裁判所が公表している養育費算定表の書類を真紀さんに見せた。

「真紀さんは年収はどれぐらいですか?」

「私は今はパートの時間を増やしたので、今までは扶養内でしたが今年は180万円ぐらいになりそうです。」
「でも、今はまだ扶養範囲内です。」

僕は算定表の該当する場所を指で示した。

「それでしたら、もし離婚した場合の養育費は、6万から8万円になります。」
「多分、7万円で決着になると思います。」
「ただ、真紀さんの収入が225万円を超えると、6万以下になる可能性があるので気を付けて下さい。」

「な、7万!!」
「そ、それだけなんですか!?」

「・・・はい。」
「それが現実です。」
「養育費は、お子さんのみに使うお金で、裁判所はそれで十分だと判断しています。」
「ただ、お子さんが15歳になったら、その時の貴女の年収にもよりますが、10万ぐらいにはなると思います。」

「・・・でも、それだけなんだ。」

「・・・・・・・。」
「離婚するまでは貴女の生活費も加味されるので、婚姻費用だと10万から12万ぐらいです。」

「それでも、少ないですね。」
「あ!!」

真紀さんは思い立ったように、僕の顔を見て言った。

「子供の、学費はどれぐらい出るんですか!!」
「子供は中学から私立に行くと、主人と決めているんです。」
「子供も、私立中学に行くと言って、塾に行って頑張っています。」
「それに、これから高校、大学とお金がかかってきます。」
「それは、どれぐらい主人に請求出来るのですか?」

「・・・・・・・。」

僕は暗い気持ちになった。
今までも、同じようなやり取りを経験している。

「言いにくいですが・・・」
「学費も全て含めての金額が7万円です。」
「ご主人から取れるのは、14歳までは7万円、15歳からは10万円。」
「それで足りなければ、貴女が稼がなくてはいけません。」
「それ以上必要なら・・・」
「ご主人にお願いをして、出して貰えるように懇願しないといけません。」
「でも、ご主人が嫌だと言えばそれまでです。」
「それ以上は、1円も貰う事は出来ません。」
「それが・・・現実です。」

養育費は少ないと僕も感じている。
しかし、これが現実だ。
今まで、どれほど落胆する女性の顔を見て来ただろうか・・・
しかし、現実を知らなければ次には進めない・・・

真紀さんは・・・ 
憮然とした顔で・・・
何度も、何度も・・・
算定表を確認をしていた。

僕は真紀さんの憮然とした表情を見ながら考えていた。

「・・・・・・・・・。」

夫の収入は、実際はもっとある可能性は高いと判断はしている。
また、学費に関しても、浮気の証拠を押さえ、カードを使う事が出来れば、交渉次第で勝ち取る事も出来るかもしれない。

だが、まだ可能性のこの段階で真紀さんに伝える事は、止めておこう。
出来なければ、落胆させる事になる。

それに・・・
真紀さんには酷だが、まずは現実を直視してほしい。

それを踏まえて、覚悟を決め、夫と立ち向かえるかどうかが重要になってくる。
どれだけ僕が頑張っても、最終決定は真紀さんだ。
真紀さんには、子供の為にも強くなってほしい。
今の真紀さんでは、夫と戦う事は厳しいだろう。

しかし、僕のこの時の判断は間違っていた。
真紀さんに強くなってほしいとの、僕の願いとは裏腹に・・・
真紀さんの心が、どんどん弱くなっていくのを・・・

僕は・・・
気付くことが・・・

出来なかった。



人気ブログランキング

トラン探偵事務所ブログ